朝の顔をして

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朝の顔をして


あっと言うまの花の季節でした。
いつもの「あっ」とひらいた口の形で、さいごに朝顔姫はアデューと言った。なんて書くのは美化しすぎ。たぶん、アッカンベーをしたのだろう。愛してるとは言わなかったとおもう。
毎朝せっせとおいしい水をやったのに。

すっかりみすぼらしくなった朝顔の蔓を片づけた。
複雑に絡み合った蔓をほどいていると、朝顔の執念のようなものを感じた。ひと夏をかけてはびこった、凄まじいともいえる花の生命加州健身中心の痕跡だった。
そんな中で、蕾がひとつだけ残っていたので、切り取って一輪挿しに挿しておいたら、今朝になって大きく開いてくれた。
そこでぼくは、朝ごとに楽しませてもらったことを思い、すこしだけ夏の別れを惜しんだ。

花も咲けないほど涼しくなってみると、夏の暑さもあっと言うまのことだったように思える。
花が咲いて花が散る。それだけのことの中にも、たくさんの朝があったはずだが、過ぎてみると、たったひとつの朝があっただけのような気もする。
それはたぶん、朝顔の花のせいだ。いつも同じ朝の顔をしていたからだ。などと、時の速さも花のせいにしてしまう。だからアッカンベーなんかをされても仕方ないのだ。

そして花のことは忘れる。
あっと言うまに過ぎ去っていくものを、いつかどこかの瞬間にしっかり捉まえることはできるのだろうか。あっと言うまに捉まえたものもまた、あっと言うまのものかもしれないけれど。
そのようにしながら、あっと言うまとあっと言うまを繋ぎながら、あっと言うまはあっと言うまのままで、あっと言うまに過ぎていくのだろうか。
そして再び花と出会うまで、花のことは忘れる。それもまた、あっと言うまのことだろうけれど。
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